CKD 患者さんにおけるシックデイルールについて教えてください
CKD患者では、嗐吐・下痢・発熱・食事・水分摆取低下などの体液量減少を伴う急性疾患を契機にAKIを合併しやすいため、「シックデイ」時の薬剤管理が重要です。ただし「特定の薬を一律に中止するルール」ではなく、SGLT2阻害薬・ACE阻害薬/ARB・利尿薬・メトホルミン・NSAIDs・SU薬(SADMANS)を中心に、患者の脱水状態・腎機能・適応・併存疾患を踏まえて個別に判断することが重要です。なお、シックデイ・ルールが実際にAKIや入院を減少させるという直接的なエビデンスは現時点で限定的であり(FinkらのRCT等)、休薬の可否だけでなく「いつ再開するか」まで含めた支援が求められます。
Q. CKD 患者さんにおけるシックデイルールについて教えてください
A.CKD患者では、脱水を伴う急性疾患を契機としたAKIや薬剤関連有害事象を防ぐため、シックデイ時の薬剤管理が重要になる
CKD患者はもともと腎機能が低下しており、嘔吐・下痢・発熱・食事や水分摂取の低下などによる体液量減少を契機として、AKI(急性腎障害)を合併するリスクが高い。
そのため、シックデイには脱水状態を評価するとともに、服用中の薬剤について一時的な休薬が必要かを検討する。
ただし重要なのは、
「CKD患者ではシックデイになったら特定の薬を一律に中止する」というルールではない。
という点である。
シックデイ・ルール自体は多くのガイドラインや教育資材で推奨されている一方、CKD患者に対する休薬プロトコルがAKIや入院を減少させるという直接的なエビデンスは、現時点では限定的である。
どのような状態を「シックデイ」と考える?
特に注意するのは、脱水や循環血液量減少につながる急性疾患である。
たとえば、
- 嘔吐を繰り返している
- 下痢が続いている
- 発熱している
- 食事がほとんど摂れない
- 水分が十分に摂れない
といった状態である。
CKD患者では、このような状態から
急性疾患↓食事・水分摂取低下/嘔吐・下痢↓循環血液量低下↓腎灌流低下↓AKI
という経過をとる可能性がある。
さらに、CKDでは薬物動態・薬力学の変化によって薬剤関連有害事象を起こしやすくなるため、急性疾患時の薬剤管理が重要になる。
シックデイ時に確認したい薬剤は?
海外では、注意する薬剤群をSADMANSとして整理することがある。CKDを対象としたレビューでも以下の薬剤群が取り上げられている。
ただし、SADMANS=すべての患者で必ず休薬する薬剤リスト、と理解するのは適切ではない。
患者の状態、脱水の程度、血圧、腎機能、薬剤の適応、心不全の有無などを踏まえて個別に判断する必要がある。
特にSGLT2阻害薬はどう考える?
CKD診療では特に重要である。
SGLT2阻害薬はCKDの進行抑制に重要な薬剤だが、急性疾患時には体液量減少や正常血糖DKAなどに注意する必要がある。
日本腎臓学会・日本糖尿病学会による「CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation」でも、CKD患者に使用する際の脱水などの有害事象への注意が示されている。
したがって、
「SGLT2阻害薬は腎臓に悪いから止める」
ではなく、
通常時には腎保護効果が期待できる重要な薬剤だが、脱水や摂取不良を伴う急性疾患時には安全性のため一時休薬を検討する
と説明するのが適切である。
ACE阻害薬・ARBも止める?
ここは慎重に考える必要がある。
ACE阻害薬・ARBは、CKDの進行抑制や心血管イベント抑制などの目的で重要な薬剤である。一方、循環血液量が低下した状況では糸球体濾過圧を維持しにくくなり、腎機能が悪化する可能性がある。
そのため、明らかな脱水、低血圧、AKIが疑われる状況などでは一時休薬を検討することがある。
しかし、安易な長期中止は避けるべきであり、
「止めるか」だけではなく、「いつ再開するか」まで考える
ことが重要になる。
シックデイ・ルールで本当にAKIを予防できる?
ここはエビデンスを正確に説明する必要がある。
CKD stage 3~5の315例を対象としたFinkらのランダム化比較試験では、体液量減少を伴う急性疾患時に特定薬剤を休薬するsick-day protocolを通常ケアと比較した。
その結果、腎機能低下やAKIを有意に減少させることは示されなかった。
また、2022年のsystematic scoping reviewでは74文献が検討されたが、多くはガイドラインや教育資材であり、実際の臨床アウトカムに対する有効性を評価した研究は非常に少なかった。
CKDに限定したscoping reviewでも、
- ガイドラインの多くは専門家コンセンサスに基づく
- 臨床アウトカムへの効果を示す研究は少ない
- 唯一のRCTでは腎機能、AKI、入院リスクの有意な改善を認めなかった
と整理されている。
したがって、
病態生理的には合理性があり、ガイドラインでも広く採用されているが、「シックデイ・ルールによってCKD患者のAKIが減る」とする直接的エビデンスはまだ十分ではない
という説明が妥当である。
薬剤師として何を確認する?
シックデイ指導では、単に「この薬を止めてください」と説明するのではなく、
① 本当にシックデイか→ 嘔吐・下痢・発熱・摂取不良・脱水
② AKIを疑う状態がないか→ 尿量低下、強い倦怠感、低血圧など
③ どの薬剤を使用しているか→ SGLT2阻害薬、RAS阻害薬、利尿薬、メトホルミン、NSAIDs、SU薬など
④ 休薬が必要か→ 患者の状態・適応・併存疾患を踏まえて判断
⑤ 医療機関への相談・受診が必要か
⑥ いつ再開するか
までをセットで確認することが重要である。
特に患者自身によるシックデイ対応には判断・実行の難しさがある。CKDのscoping reviewでは、単に患者向け資料を渡すよりも、医療従事者との対話を組み合わせる方が有効である可能性も示されている。
薬剤師としてのTake Home
CKD患者のシックデイ対応は「休薬リストを渡すこと」ではなく、「脱水・AKIリスクを評価し、薬剤ごとのリスクを判断し、必要な一時休薬と確実な再開を支援すること」と考える。
主な参考文献
- Fink JC, et al. Medication Holds in CKD During Acute Volume-Depleting Illnesses: A Randomized Controlled Trial of a “Sick-Day” Protocol. Kidney Med. 2022;4:100527. PubMed
- Watson KE, et al. Sick Day Medication Guidance for People With Diabetes, Kidney Disease, or Cardiovascular Disease: A Systematic Scoping Review. Kidney Med. 2022;4:100491. PubMed
- Duong H, et al. Sick day management in people with chronic kidney disease: a scoping review. J Nephrol.2023;36:1293–1306. PubMed
- 日本腎臓学会「CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation」 日本腎臓学会