SGLT2阻害薬服用中に、水分摂取量はどの程度増やしたら良いか?
服用初期は普段より500mL程度多めをひとつの目安として、こまめな水分摂取を意識する
Q.SGLT2阻害薬服用中に、水分摂取量はどの程度増やしたら良いか?
A.「一律に○mL増やす」という確立した基準はない。
ただし、SGLT2阻害薬の開始直後には浸透圧利尿によって尿量が増えるため、服用初期は普段より500mL程度多めをひとつの目安として、こまめな水分摂取を意識するという指導は実務上考えやすい。
一方で、尿量増加は時間とともに減弱することが多く、服用期間中ずっと500mLを追加し続ける必要があるとは言えない。
また、心不全、CKD、浮腫、利尿薬併用などでは体液量管理が異なるため、患者背景に応じて個別に判断する。
なぜ「500mL」が目安になるのか?
日本人2型糖尿病患者100例を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照試験では、エンパグリフロジン開始1日目の24時間尿量は、
- 10mg群:+0.83L/日
- 25mg群:+1.08L/日
- プラセボ群:+0.29L/日
増加した。
プラセボとの差でみると、実質的な尿量増加は、
約+540〜790mL/日
であった。
一方、Day 27〜28ではプラセボとの差は0.1L/日未満となり、尿量増加はほぼ消失していた。
したがって、
SGLT2阻害薬による利尿は「開始初期に目立ち、その後は減弱する」
と考えるのが適切である。
Yasui A, et al. Diabetes Ther. 2018;9:863-871.
水分摂取量そのものは増えていたのか?
同試験では、24時間の水分摂取量はエンパグリフロジン群とプラセボ群で有意差を認めなかった。
また、4週間の試験期間中に脱水に相当する有害事象は報告されなかった。
したがって、この試験は、
「尿量が約500mL増えるから、500mL飲めば脱水を防げる」
ことを証明した研究ではない。
あくまで、
服用初期の尿量増加がおよそ500mL以上になることがある
というデータとして解釈する。
国内の患者指導ではどうなっているか?
PMDA掲載のSGLT2阻害薬の患者向け資材では、服用初期について、
「喉が渇く前に水分を摂る」
とし、日常生活では、
- 起床後
- トイレの後
- 入浴前後
などに、こまめに水分を摂取することが示されている。
同資材では、エンパグリフロジン10mgで服用1日目にプラセボより約500mL尿量が増加したことも紹介されている。
一方、服用継続期については、
「喉が渇いたら水分を摂る」
とされており、長期に一律の追加飲水を求めているわけではない。
500mL以上必要という報告もあるが?
学会発表では、SGLT2阻害薬開始後に200〜600mLの尿量増加を認め、700〜1000mL/日前後の追加水分摂取が必要ではないかと考察されている。
岩田康義. SGLT2阻害薬使用による体液への影響の検討. 日本内分泌学会雑誌. 2015;91(3):830. 第88回日本内分泌学会学術総会 ポスター発表 P1-143.
ただし、
- 32例と小規模
- 学会抄録レベル
- 無作為化比較試験ではない
- 最適な飲水量を検証した試験ではない
という限界がある。
したがって、「700〜1000mL追加が標準」とする根拠には弱い。
心不全・利尿薬併用では考え方が異なる
RECEDE-CHF試験では、ループ利尿薬を使用中の2型糖尿病+慢性心不全患者にエンパグリフロジンを追加すると、24時間尿量はプラセボに比べ、
- Day 3:+535mL
- 6週:+545mL
増加した。
一般的な2型糖尿病患者とは異なり、心不全+ループ利尿薬併用では尿量増加が持続する場合がある。
一方で、こうした患者では過剰な水分摂取が心不全悪化につながる可能性もあるため、
「尿量が増えるから500mL追加」と機械的に指導しない。
実際の患者指導
服用開始初期
水分制限がない患者であれば、
普段の水分に加えて、500mLのペットボトル1本分程度をひとつの目安として、1日を通してこまめに摂取する
という説明は実用的である。
ただし「必ず500mL追加」という意味ではなく、
- 尿量
- 口渇
- 気温・発汗
- 食事摂取量
- 血圧
- 体重
- 腎機能
をみながら調整する。
継続期
尿量増加は減弱することが多いため、
無理に500mLを追加し続ける必要はない。
口渇や尿量、気候、活動量などに応じて通常の水分摂取を続ける。
特に注意する患者
次の場合は一律の追加飲水を避け、個別に判断する。
- 心不全
- CKD
- 浮腫
- 利尿薬併用
- 高齢者
- 水分制限を指示されている患者
医療従事者としてのポイント
SGLT2阻害薬開始時には、単に
「水をたくさん飲んでください」
と伝えるだけでは不十分である。
確認したいのは、
尿量・排尿回数+ 口渇+ 水分摂取量+ 体重+ 血圧・立ちくらみ+ 食事摂取量
である。
特にシックデイでは、飲水量を増やして服薬を継続するのではなく、SGLT2阻害薬を休薬して脱水やケトアシドーシスを防ぐことが重要である。
参考文献
- Yasui A, Lee G, Hirase T, et al. Empagliflozin Induces Transient Diuresis Without Changing Long-Term Overall Fluid Balance in Japanese Patients With Type 2 Diabetes. Diabetes Ther. 2018;9:863-871. doi:10.1007/s13300-018-0385-5.
- Mordi NA, Mordi IR, Singh JS, et al. Renal and Cardiovascular Effects of SGLT2 Inhibition in Combination With Loop Diuretics in Patients With Type 2 Diabetes and Chronic Heart Failure: The RECEDE-CHF Trial. Circulation. 2020;142:1713-1724.
- 日本糖尿病学会.糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation.
- PMDA.SGLT2阻害薬 患者向けRMP資材「水分補給のポイント」.
- 岩田康義.SGLT2阻害薬使用による体液への影響の検討.日本内分泌学会雑誌. 2015;91:795.
PDFを開く →