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Q

歯を抜くことになりました。骨粗しょう症の薬は止めた方がいいですか?

A

ビスホスホネート製剤を使用していても、抜歯のために必ず休薬が必要とは限りません。自己判断で中止せず、服用(注射)している薬の名前・期間などを歯科医師に伝え、必要に応じて処方医と相談してください。

Q.歯を抜くことになりました。骨粗しょう症の薬は止めた方がいいですか?

A.ビスホスホネート製剤を使用していても、抜歯のために必ず薬を止める必要があるわけではない。自己判断で中止せず、使用している薬を歯科医師に伝え、必要に応じて処方医と相談することが大切である。

ビスホスホネート製剤では、まれに薬剤関連顎骨壊死(MRONJ:medication-related osteonecrosis of the jaw)と呼ばれる、あごの骨の治りが悪くなる副作用が起こることがある。

このため以前は、抜歯の前にビスホスホネート製剤を一定期間休薬する方法が検討されていた。

しかし、現在は

抜歯前に薬を休むことでMRONJを予防できるという十分な根拠はない

と考えられている。

日本口腔外科学会、日本骨粗鬆症学会、日本病院薬剤師会など6学会で作成された「薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:ポジションペーパー2023」では、骨吸収抑制薬は原則として抜歯時に休薬しないことが提案されている。

なぜ「抜歯前に休薬」が必須ではなくなった?

MRONJは、単に「抜歯をしたから起こる」と考えるよりも、抜歯が必要になるような歯周病や根の周囲の感染・炎症そのものが重要なリスク因子であると考えられるようになってきた。

ポジションペーパー2023でも、従来の「抜歯などの手術侵襲」に加えて、抜歯を必要とする歯性感染をより重視する考え方へと整理されている。

そのため、

「ビスホスホネートを飲んでいるから抜歯しない」

ではなく、

「感染した歯を放置せず、必要な歯科治療を適切に行う」

ことが重要になる。

薬を休むと、顎骨壊死は減る?

現時点では、休薬によってMRONJが明らかに減少するとは示されていない。

2022年のシステマティックレビュー・メタ解析では、抜歯などの歯科処置を受ける患者6,808人について、

  • 休薬あり:4,847人
  • 休薬なし:1,961人

を比較した。

MRONJ発症について、休薬群と非休薬群に統計学的な有意差は認められなかった。

OR 0.7395%CI 0.51–1.06p=0.10

著者らは、現在得られているエビデンスの範囲では、休薬によってMRONJリスクが低下するとはいえないと結論している。

日本のポジションペーパー2023が「原則として休薬しない」とした背景にも、こうしたエビデンスがある。

では、何を確認すればよい?

抜歯を予定している場合には、歯科医師に次の情報を伝えることが重要である。

  • 使用している骨粗しょう症治療薬の名前
  • 飲み薬か注射薬か
  • どのくらいの期間使用しているか
  • がんの治療で使用している薬ではないか
  • ステロイド薬など、ほかに使用している薬
  • 糖尿病などの持病
  • 過去に顎骨壊死を起こしたことがないか

特に、歯周病や口腔内の感染、長期間の骨吸収抑制薬使用、ステロイド使用、糖尿病、喫煙などはMRONJリスクを考えるうえで参考になる。

骨粗しょう症治療と、がん治療ではリスクが違う

ここは重要なポイントである。

骨粗しょう症で使用するビスホスホネート製剤と、がんの骨転移などに使用する高用量の骨吸収抑制薬では、MRONJのリスクが大きく異なる。

米国歯科医師会(ADA)も、骨粗しょう症に用いる低用量治療ではMRONJはまれであり、骨折予防による利益がMRONJのリスクを上回るとしている。一方、がん治療で高用量・高頻度に使用する場合は、より慎重な歯科管理が必要になる。

したがって、

「ビスホスホネートを使用している」という情報だけで一律に判断するのではなく、何の病気に、どの薬を、どのくらい使用しているかを確認する必要がある。


薬剤師としてのポイント

1.「抜歯するから薬を止める」は現在の標準的な考え方ではない

ポジションペーパー2023では、

予防目的の骨吸収抑制薬の休薬について、有用性を示すエビデンスはなく、原則として抜歯前に休薬しない

ことが提案されている。

そのため患者から、

「歯医者で抜歯すると言われたので、今日から骨粗しょう症の薬を止めていいですか?」

と相談された場合には、

「自己判断では止めず、まず歯科医師に薬剤名を伝え、必要であれば処方医と相談してください」

と説明するのが適切である。

2.「抜歯」だけでなく「なぜ抜歯が必要になったか」を見る

MRONJのリスク評価では、

  • 重度歯周病
  • 根尖病変
  • 歯性感染
  • インプラント周囲炎

などの慢性的な感染・炎症も重要である。

つまり、

抜歯=MRONJの原因

と単純化するのは適切ではない。

感染した歯を残すこと自体がMRONJのリスクにつながる可能性がある。

3.骨粗しょう症治療を中断する不利益も考える

骨粗しょう症の治療目的は骨折を予防することである。

ビスホスホネート製剤を中止するかどうかは、MRONJだけではなく、

  • 年齢
  • 骨密度
  • 過去の脆弱性骨折
  • 現在の骨折リスク
  • 治療期間

なども踏まえて判断する必要がある。

ADAも、骨粗しょう症治療による骨折予防の利益は、MRONJの低い発症リスクを上回るとしており、歯科治療だけを理由に安易に治療を変更すべきではないという考え方を示している。

休薬そのものにも注意が必要

骨粗鬆症治療薬は、薬によって中断したときの影響が異なる。

特に、デノスマブ(プラリア)は投与を延期・中断すると骨吸収が急激に亢進し、椎体骨折のリスクが高まることがあるため、抜歯を理由に安易に投与を遅らせるべきではない。

また、ロモソズマブ(イベニティ)は12か月の治療終了後に、ビスホスホネートやデノスマブなどの骨吸収抑制薬へ移行して治療効果を維持することが基本となる。 イベニティ終了直後に抜歯が予定されている場合でも、「顎骨壊死が心配だから」という理由だけで次の治療を開始せず、長期間空けることが必ずしも安全とは限らない。

そのため、抜歯を予定している患者では、

  • 現在使用している薬剤
  • 最終投与日
  • 次回投与予定日
  • これまでの治療歴
  • 骨折リスク
  • 歯性感染の程度

を確認し、必要に応じて歯科医師と骨粗鬆症治療を担当する医師が連携して、歯科治療と骨粗鬆症治療のタイミングを調整することが重要である。


患者への説明例

「骨粗しょう症の薬の中には、ごくまれに、あごの骨の治りに影響するものがあります。ただ、抜歯をするからといって、必ず薬を止めた方がよいわけではありません。

現在は、抜歯前に薬を休んでも、あごの骨のトラブルを減らせるという十分な根拠はないとされています。

一方で、歯周病などの感染をそのままにしておくことも問題になります。

自己判断で薬を止めず、骨粗しょう症の薬を使っていることを歯科医師に伝えてください。必要であれば、歯科医師と薬を処方している医師で相談して治療方針を決めます。」


参考文献

  1. 顎骨壊死検討委員会.薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023. 日本口腔外科学会・日本骨粗鬆症学会・日本骨代謝学会・日本歯科放射線学会・日本臨床口腔病理学会・日本病院薬剤師会.2023.
  2. 岸本裕充,森寺邦康.薬剤関連顎骨壊死 ポジションペーパー2023 ~改訂のポイント~. 日本口腔外科学会雑誌.2024;70(7):278-283. doi:10.5794/jjoms.70.278.
  3. Aboalela AA, et al. The Effect of Antiresorptive Drug Holidays on Medication-Related Osteonecrosis of the Jaw: A Systematic Review and Meta-Analysis. Cureus. 2022;14(10):e30485. doi:10.7759/cureus.30485.
  4. American Dental Association. Osteoporosis Medications and Medication-Related Osteonecrosis of the Jaw. MRONJリスク、歯科治療および休薬に関する解説。
  5. 上田美帆,岸本裕充.薬剤関連顎骨壊死ポジションペーパー2023:インプラント治療のために知っておきたい改訂のポイント. 日本口腔インプラント学会誌.2024;37(4):277-286.

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